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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)98号 判決

原告 株式会社明輝製作所

被告 中央労働委員会

補助参加人 総評全国一般労働組合神奈川地方本部

主文

一  原告を再審査申立人、補助参加人を再審査被申立人とする中労委昭和五四年(不再)第一三号不当労働行為再審査申立事件につき、被告が昭和五六年七月一日付でした別紙(二)命令書記載の命令中、次の部分を取り消す。

補助参加人を申立人、原告を被申立人とする神労委昭和五一年(不)第二八号不当労働行為申立事件につき、神奈川県地方労働委員会が昭和五四年二月一五日付でした別紙(一)命令書記載の命令中、主文第二項の総評全国一般労働組合神奈川地方本部明輝製作所横浜分会宛誓約書の掲示を命ずる部分に対する再審査申立てを棄却した部分。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告

1  原告を再審査申立人、補助参加人を再審査被申立人とする中労委昭和五四年(不再)第一三号不当労働行為再審査申立事件につき、被告が昭和五六年七月一日付でした別紙(二)命令書記載の命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告及び補助参加人

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  救済命令

補助参加人は、昭和五一年一二月六日、神奈川県地方労働委員会に対し、原告を被申立人として支配介人等に関する不当労働行為救済の申立てをした。同委員会は、右申立てにかかる事件(神労委昭和五一年(不)第二八号)について、昭和五四年二月一五日付をもつて別紙(一)命令書記載のとおりの救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。

右命令を不服として、原告が昭和五四年二月二六日被告に対し再審査の申立てをしたところ、被告は、右申立てにかかる事件(中労委昭和五四年(不再)第一三号)について、昭和五六年七月一日付をもつて別紙(二)命令書記載のとおりの原告の再審査申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発し、同命令書は同年八月二九日原告に交付された。

2  本件命令の違法

本件命令には、次のとおり、これを取り消すべき違法事由がある。

(一) ポスト・ノーテイスについて

(1) 本件命令が維持した初審命令は、別紙(一)命令書記載のとおりであつて、原告に対し、補助参加人、総評全国一般労働組合神奈川地方本部明輝製作所横浜分会及び同明輝製作所大和分会(以下「横浜分会」、「大和分会」という。)に宛て誓約書の掲示を命じているが、被告の本件命令時はもとより、その審問を終結した昭和五四年七月一九日の以前である昭和五三年九月三〇日に横浜分会の清水昭二組合員が脱退して同分会は組合員が零となり、また、昭和五四年四月二〇日に大和分会の分会長上野充が脱退し、同分会の分会長は丹野誓志となつていたものである。

(2) もともと、被告の発する命令は、行政法上直ちに公定力を生ずるものであるため厳格性が要求されているところ、本件命令は、右のように既に分会として存在しない横浜分会宛ての誓約書の掲示を命ずるものであり、また、誓約書中に表示される分会長が既に脱退して他の組合員が分会長となつている大和分会宛て脱退組合員を分会長と表示した誓約書の掲示を命ずるものであつて、いずれも違法であり取り消すべきものである。

(二) サツカー大会に関する事項について

(1) サツカー大会は親睦団体にすぎない親和会が主催したもので、組合活動と無関係であるから、仮に原告が従業員に不参加を呼びかけたとしても(そのような事実が存在しないことは後述する。)何ら不当労働行為となるものではない。

(2) 親和会は、昭和三〇年福利施設が不十分であつたところから、原告が従業員の福利充実のため親睦団体として発足させたものである。以来親和会は親睦団体として各種サークル、クラブ活動の本部ともいうべき地位に位置するようになつたのである。当時、親和会は会費月一五〇円を従業員に負担させ、その不足分を原告が補足し運営されているが、親和会に属する各サークル活動の催す行事への参加は義務づけられているものではなく、自らの希望するサークルへ所属し、自らの選択に従つて各行事に参加することになつているのである。昭和五一年一一月二三日におけるサツカー大会も親和会所属のサツカー部主催の行事であり、これは組合活動という性格を一切有するものではないのである。このことは、親和会の名誉会長が社長であり、また工場長以下各管理職も自由に参加できる組織運営からも当然のことなのである。

(3) 被告は、東京工場の従業員がサツカー大会でプレーすると感化されたり、その宣伝活動を受けることを防止するため組合員と接触することを嫌つて工作したなどと、推認をしているが、それは全く根拠がない。前記のとおり、そもそもサツカー大会は組合活動とは全く関係のないクラブ活動であり、その目的は従業員(管理職を含めた)の親睦にあり、この活動の機会に本来的な目的に反する組合の宣伝活動などなすべきものではないのである。サツカー大会が当然のごとく組合の宣伝活動に利用されるべきものであるとの前提にたつての本件命令は誤りであり、取り消されるべきである。

(4) 原告は、原告の東京工場の従業員に対し、サツカー大会への不参加を命じたことは全くない。東京工場ではサツカー大会に参加しない予定であつて、当日は同工場の従業員が自主的に、任意に同工場に集り、懇親会を開いたもので、原告の社長や管理職も出席していない。

(5) 以上のとおりであつて、サツカー大会に関する事項について、被告は明らかに証拠の取捨選択を誤つて、誤つた事実を認定しているもので、本件命令は取り消さるべきものである。

(三) 一一月二四日における矢口部長の発言について

(1) 折腹久は、中学卒業後昭和三八年三月、原告に入社し、ラジアルの機械を担当することとなり矢口部長の直属の部下となつた。当時、折腹の両親は、実家を離れ一人横浜に出て行つた折腹久のことを心配し、矢口部長に息子のことを頼みたい旨申し出てきたため、責任感の強い矢口部長は両親の希望に応え、その後も継続して折腹の両親との間で折腹の日常の仕事ぶり、私生活上の問題等について手紙、電話等によつて相互に連絡をとり合つていたのである。

昭和四二年頃、折腹久の弟が川崎方面に就職したのを契機に父親も出稼ぎが多かつたことから、折腹一家は田舎を引払い神奈川の方へ移転することになつた。この移転に際し、矢口部長は、折腹久から住居を見つけてほしい旨依頼されたため、川島工業という会社にかけ合い、自分の住居に近い上山町の貸家を見つけ、折腹一家はそこに居住することとなつたのである。

移転後は家が近所となつたため、矢口部長の妻と折腹の母親との間にも親しい付き合いがはじまり、晩の惣菜を工面したりするまでの付き合いで、折腹久の話題は常に出ていたのである。

その後もその話題は折腹久の友人関係、仕事関係にとどまらずその他特に変つたことがある場合にはそれが話題となつていたのであつた。例えば折腹久の担当職種がラジアルからフライスにかわつた際、母親はそれを心配し矢口部長に相談したり、折腹久が洋光台に移転した後にも彼の女友達のことで相談にのり、その女友達の実家(山形県)にまで電話して話をまとめようとしたことまであつたのであつた。

以上に例示したように、矢口部長と折腹一家との付き合いは、原告会社内における上司と部下との関係にとどまらず、家族ぐるみの付き合いとなつており、日々折腹の仕事、友人関係、趣味に至るまで様々な事柄について交流がもたれていたのであつた。

(2) 昭和五一年一一月二四日昼休み、矢口部長は折腹の自宅にいる母親へ電話したが、補助参加人の主張するような内容の話はしていないのである。同日の話は、折腹の生活に変化がおきたら連絡してくれるようにと、常々母親から頼まれていたためいつも連絡するように折腹が、組合の分会長となつている(配布されたビラにその旨記載されているのをみて知つたものであるが)ため、そのことを母親に連絡したのである。矢口部長は、右連絡に先立ち一一月半ば頃も、折腹の母親に譲つた紫陽花の手入れについて電話連絡しており、二四日の連絡も突然のことではなく、常々の付き合いから出たことにすぎないのである。

以上のような矢口部長と折腹との関係からして、母親に折腹が組合の分会長になつたことを連絡したとしても、何ら不当労働行為とはなり得ないのである。

したがつて、被告の命令は取り消されるべきである。

(四) 横浜工場、大和工場における管理職らのグループ長らに対する発言について

(1) 管理職らの発言は、大手取引先であるソニー、松下電器から組合ができると納期が遅れることが多いと言われていたので、納期に遅れることがないよう全員で頑張つてもらいたいという内容であり、不当労働行為となるものではない。

(2) 原告会社ではグループ長以上から構成される製造会議があり、定例会議は月二回程度開かれていたが、必要があれば臨時会議が開かれることもあり、右会議においては仕事の納期や作業の安全、得意先との関係などについて話し合われていた。会議は会員を招集して開かれるほか、予期しない事件が発生した場合、急にグループ長を全員一堂に集めると作業に支障を来すことから、グループ長を少人数に分けて招集し対策を講ずることにしていた。

(3) 原告横浜工場における仕事の受注量の四〇パーセント近くはソニー発注にかかるものであり、ソニーは原告にとつても最も重要な取引先の一つであつた。

昭和五一年一一月一八日頃増井部長はソニーの担当者から新製品を開発したこと、右製品の金型を原告に発注するつもりであること、その図面が同月二五日にでき上るので、同日の午後とりに来るようにとの連絡を受けた。増井部長がソニーを訪れると、予期に反し今回原告には発注できないとのことであつた。そこで、その理由をたずねると「最近品質的にも、おたくに問題があるのではないか。」と納入する品物の品質が低下していること、納期も遅れていることを指摘されたため、翌朝朝礼の始まる前に工場長、技術部長、製造部長に報告したところ、大きな問題でない場合には朝礼で全員に呼びかけることが多いのであるが、仕事の発注を一たん約束されながら品質が悪いこと、納期が遅れていることなどという不面目な理由で拒否されたことは従来例がなかつたこと、原告の売上のシエアの四〇パーセント近くを占めるソニーから今後仕事の発注を受けられなくなることは、原告にとつて大きな打撃となることから、工場長の判断で朝礼ではなくまずグループ長を時間をあけて呼び、その席で問題点を出し合つて対策を立てることにした。

(4) 原告横浜工場営業第二部長である北条が同年一一月二六日午前、得意先の松下電器を訪れると、同社の担当者から「おたくの会社に組合ができたそうだが、どういうことなのか説明してほしい。」と説明を求められた。そこで、北条部長がこれまでの経緯を説明したところ、上部の組織に入つているのかと聞かれたため全国一般に加盟しているようだと答えたのに対し、「それは一寸上手くないな。」とのことであつた。その理由は、組合員に対する方針、命令はすべて上部で統一してやつているため、闘争方針は自主的に管理できなくなつてしまうこと、そのため各企業の実情を離れた闘争方針が打ち出されると各企業の仕事にも支障が出てくること、特に春闘とか、一時金の時期には非常に支障がでてくること、そのために松下電器としても安心して仕事を任せておくわけにはいかないとのことであつた。

特に松下電器が他社から受注し、原告に発注する仕事の納期が遅れた場合には、松下電器の信用にも影響するところから、納期が非常にうるさいものだとか、重要視されるものは徐々に発注できなくなる、特に春闘とか一時金の闘争シーズンになるとそれが一番心配になるとのことであつた。

(5) これを聞き、驚いて原告会社に帰ると、前記のように増井部長がソニーから仕事の発注を断られたため、急遽製造会議が開かれ、グループ長が二ないし三名ずつ呼ばれていたため、北条部長も加わり松下電器から聞いたことを説明し、受注を止められたりすることがあるかもしれないが、納期を守り品質を落したりしなければ一時的に仕事が来なくても、その後また理解してもらつて受注できるようになるだろう、これまで以上に納期を厳守し、品質管理に留意してもらいたいと注意したのである。

(6) 以上のとおり、一一月二六日の会議は、ソニーから仕事の発注を止められたことから、その対策のため開かれたものであり、そこで話されたのは当然ソニーから仕事の発注を止められた原因である、仕事の納期遅れと品質管理の問題であり、午後から出席した北条部長が話したのも、松下電器の担当者が語つた話の内容と納期、品質管理の問題であつた。なるほど全国一般はまずいと言つた発言はあつたが、それは松下電器の担当者が語つた内容を伝えたまでのことで、第三者が語つた内容をそのまま伝えることは、たとえその内容が直接原告が語れば不当労働行為となりうる内容のものであつたとしても、なお原告に黙秘する義務がない以上、不当労働行為とならないことは自明の理である。

なお、会議の席上において増井部長、北条部長らが斎グループ長に「どういう気持で組合に入つているのか。」、小枝グループ長に「全国一般では三年で会社が潰れる。ソニー、日立からも仕事が来なくなる。」と発言したことは全くない。

(五) 天野、宮崎両係長の佐藤正光、北村安男、立川孝夫に対する発言について

天野、宮崎両係長は原告会社の末端職制であるところから、かかる者が就業時間外に組合員に何らか発言をした場合に、右発言が不当労働行為になるためには、右発言が原告会社の意を体した発言でなければならない。しかしながら、天野、宮崎両係長が佐藤らに語つたのは原告会社の社長から何人かに渡されたというコピーされた組織図(この組織図は同社長が作成したものではなく、これが天野、宮崎両係長に直接手渡されたものでもない。)を示しながら、同社長が「全国一般は共産党系だ。」、「社長は全国一般に入つているうちは団交をしない。」と言つている旨の事実、同社長がかかる発言をしたことが真実か否かはさておき、仮に真実としても、かかることを語つていたという事実を伝えたまでで、原告会社の意を体し佐藤らを組合から脱退させるなどの目的のもとに語つたものではないから、不当労働行為とならないこと自明である。

天野係長が脱退届を一括して分会長へ郵送したことから、その発言は脱退を勧めたものと判断しているが、天野係長自身も当時組合員であつたが、組合自体の方針等に反発して脱退を決意し、同じ意見の者と自主的に脱退したものであり、その判断は誤りといわざるをえない。

3  本件命令書理由欄記載の被告の認定事実(これが引用している別紙(一)の命令書理由欄記載の神奈川県地方労働委員会の認定事実を含む。)に対する認否

(一) 「1 当事者」について

原告に関する事実及び昭和五一年一一月二〇日原告に対して組合結成通知がなされたことは認めるが、その余の事実は不知。

(二) 「2 分会公然化」について

(1)及び(5)の事実は不知。

(2)の事実は否認する。

(3)のうち、原告会社に従業員の親睦団体である親和会があつたこと及び親和会の会長が佐藤敬一であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4)のうち、公然化が一一月二〇日に早められたことは不知、その余の事実は認める。

(三) 「3 分会公然化後の会社の諸行為」について

(1)のうち、サツカー大会に東京工場の従業員が少なくとも二、三名参加したことは認めるが、それが二、三名だけかどうか及びその余の事実は不知。

なお、東京工場に集るよう連絡したのが原告の意によるものであるとの趣旨であれば、その点は否認する。

(2)のうち、矢口部長が折腹宅に電話したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3)の事実は認める。

(4)及び(5)のうち、グループ長を集めて話をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(6)のうち、天野、宮崎が佐藤らを呼んだことは不知、その余の事実は否認する。

(四) 「4 本件申立後の状況」について

(1)の事実は不知。

(2)及び(4)の事実は認める。

(3)のうち、明輝製作所労働組合が結成されたことは認めるが、その余の事実は不知。

4  よつて、本件命令の取消しを求める。

二  請求の原因に対する被告の答弁及び主張

1  請求の原因1の事実は認める。

2(一)  同2の(一)(1)の事実は認めるが、(2)の主張は争う。

原告の主張どおりであるとしても、ポスト・ノーテイス命令のすべてが無効になるものとはいえない。

(1) 支配介入行為を除去し、それがなかつたと同様の状態を将来に向かつて、当該企業内で回復させる方法としては、相手方たる組合に今後の不作為を誓約する文書の差し出しを命ずることもあり、このような場合には原告の主張にも一理あるものといえるであろう。

(2) ところで、本件ポスト・ノーテイスは右の場合と異なり、原告の支配介入行為によつて補助参加人総評全国一般労働組合神奈川地方本部(下部組織である企業内分会を含む。)の原告会社内における活動が抑圧されていることから、その活動の自由を回復せしめるため、今後、同種の行為を行わないことを原告の名において原告従業員に周知させることを目的とするものであるから、ポスト・ノーテイスに記載する名宛人の一部に誤りがあつたとしても、ポスト・ノーテイスの必要性・適法性には影響を及ぼすべきものではない。

(3) したがつて、原告主張のとおりであつても、それは命令を履行する場合に、原告が名宛人の一部を削除し、あるいはその時点での代表者名に変更すれば足りる(かかる変更をしたか否かをもつて、命令の不履行を論ずることはない。)ことである。

この点は、命令が出された後で、代表者等の変更があつた場合も同様である。

(二)  同(二)の事実は否認し、その主張は争う。

原告は、〈1〉サツカー大会は、親和会所属のサツカー部所属の行事であつて、組合活動とは全く関係がないものであること。〈2〉かかる行事の機会に本来的目的に反する組合の情宣活動などなすべきでないこと、〈3〉したがつて、情宣活動に利用されることを前提に、それを防止するために、会社が工作したなどと推認をしているが、根拠がなく取り消されるべきであると主張するが、右の主張は、人と人との交わりについて余りにも形式化した見解である。

たとえ、サツカー大会であつても組合員と交わりをもつことによつてその影響を受けることはありうるのであつて、ましてや、本件のごとく組合結成直後に、未組織工場の従業員と交われば、組合員の側から何らかの働きかけがあると考えることは自然であつて、原告がこれと同様の認識を持つたと推認したことは常識に外れたものではない。

その他の点については、本件命令書理由中の事実認定及び判断に示したとおりである。

(三)  同(三)ないし(五)の主張については、本件命令書理由中の事実認定及び判断に誤りはなく、これに付加して主張すべきことはない。

3  以上のとおり、本件命令は、労働組合法二五条、二七条及び労働委員会規則五五条に基づいて適法に発せられた行政処分であつて、その理由は本件命令書理由欄記載のとおりで事実の認定及び判断に何らの誤りもないものである。

三  請求の原因に対する補助参加人の答弁及び主張

1  請求の原因1の事実は認める。

2(一)  同2の(一)(1)の事実は認めるが、(2)の主張は争う。

原告は、本件命令のポスト・ノーテイスに記載する名宛人の一部に誤りがあることをもつて、ポスト・ノーテイスすべての取消しを求めているが、右主張は次の理由により主張自体失当であり根拠がない。すなわち、

本件の被告中労委昭和五四年(不再)第一三号不当労働行為救済再審申立事件の結審時(昭和五四年七月一九日)に、横浜分会長清水昭二及び大和分会長上野充が補助参加人組合を脱退していることは事実であるが(右清水は昭和五三年九月三〇日、右上野は昭和五四年四月二〇日に脱退している)、原告は、被告委員会の審査の過程において右両分会長の組合脱退の事実の主張を全くしていない。被告は、審査の過程で主張された事実にもとづいて命令を発するものであるから、本件命令に違法はない。しかも、本件命令は、原告の不当労働行為を除去し、過去に遡つて原状回復を図るためのものであるから、補助参加人組合及びその下部組織であつた分会を名宛人としてポスト・ノーテイスの掲示を命ずることは、必要かつ適法である。原告の主張は、原告の支配介入による補助参加人組合への不当労働行為が、補助参加人組合の分会長が脱退したならば、その救済も必要でないとの主張と異なるところなく、全く不当かつ根拠がない。

(二)  同(二)ないし(五)の主張については、原告が神奈川県地方労働委員会に提出した最終陳述書の内容と概ね同様であり、これが理由がなく不当であることは本件命令書に記載のとおりであり、本件命令には何らの誤りもない。

四  原告の反論

1  被告は、サツカー大会であつても、組合員と交わりをもつことによつてその影響を受けることはあり得、また組合員からの何らかの働きかけがあると考えることは自然であるとして、不参加を呼びかけることが支配介入に当たると主張するが、被告自身が支配介入の定義に関して、「支配」とは、組合の結成、運営に関して(使用者が)組合の自主的活動を妨げることをいい、「介入」とは、本来使用者の立ち入るべからざる組合固有の問題に干渉することをいうとしている(大西製紙事件・中労委昭和二八年一二月二六日全集九―二〇九)が、本件の場合右にいう支配介入に該当しない。被告の主張するところは、組合員と東京工場の従業員とが接触する可能性のあるあらゆる場合(例えば、終業後や休日に接触する場合等)に、原告が東京工場の従業員に対して行為を要求すること(残業、休日出勤を命じたり、会食を行う場合等)がすべて支配介入となるというもので、不当に拡大した誤つた解釈といわねばならない。

2  補助参加人は、原告が被告委員会の審査の過程において、横浜分会が存在しなくなつたこと及び大和分会の分会長が上野でなくなつたことを主張していないので、本件命令において右の点を考慮していないのも当然であるかのように主張するが、右はいずれも補助参加人組合の内部問題であつて、原告において知る由もなく、そのことを熟知している補助参加人が故意にこれを明らかにしないでおいて誤つた本件命令を発布させたものである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件命令に原告主張の取消事由が存するか否かについて判断する。

(ポスト・ノーテイスについて)

1  本件命令が維持した初審命令が、別紙(一)命令書記載のとおりであつて、原告に対し、補助参加人、横浜分会及び大和分会に宛て誓約書の掲示を命じていること、本件命令時はもとより、被告がその審問を終結した昭和五四年七月一九日の以前である昭和五三年九月三〇日に横浜分会の清水昭二組合員が脱退して同分会は組合員が零となつたこと及び昭和五四年四月二〇日に大和分会の分会長上野充が脱退し、同分会の分会長は丹野誓志となつたことはいずれも当事者間に争いがない。

2(一)  右事実によれば、本件命令が維持した初審命令が原告に対し横浜分会宛て不当労働行為をしない旨の誓約書の掲示を命じている部分は、被告における再審査の審問終結時以前から既に組合員が零となつて労働組合としては消滅してしまつている同分会に宛て右誓約書の掲示を命ずるもので、その誓約の相手方で、掲示により救済を与えるべき対象が消滅してしまつているものであるから、その効力を生ずるに由ないものとなつているので、被告としては、右初審命令部分を取り消すべきであつたというべきである。したがつて、これを取り消すことなく、該命令部分をも維持して原告の再審査申立てのすべてを棄却した本件命令はその部分に限つて違法というべく、そして、本件命令においては、かかる部分的取消しが可能な内容であり、かつそれによつてその目的を達しうるものであるから、右の違法をもつて本件命令のすべてが違法になるというものではないというべきである。

よつて、この点に関する原告の主張は理由があるものというべきである。

(二)  前記事実によれば、本件命令が維持した初審命令は原告に対し大和分会宛て不当労働行為をしない旨の誓約書の掲示を命じ、その宛名の表示において「同明輝製作所大和分会分会長上野充殿」となつているが、被告における再審査の審問終結時以前に右上野は同分会を脱退していて同分会長ではなかつたものであるが、右における分会長の表示は、本来大和分会宛ての誓約書を同分会を代表する分会長が代表して受領することを示すものであつて、それ自体大和分会の表示と別個独立の意味を有するものではなく、大和分会の表示に誤りがない限り、右のような意味での分会長の表示に誤りがあつても初審命令の効力に何らの影響もないものというべく、原告としては該命令の履行として命令どおりの表示に従つて掲示しても、新分会長を表示して掲示しても、そのいずれも許容されるところであるというべきであるから、該命令部分を維持した本件命令には原告主張のような違法はないものというべきである。

よつて、この点に関する原告の主張は採用できない。

(サツカー大会に関する事項について)

1(一)  原告は、肩書地に本社と東京工場を置き、神奈川県大和市上和田に大和工場を、横浜市縁区に横浜工場をそれぞれ有し、家庭電気製品のプラスチツク金型の設計、製作をしている会社で、従業員は約一九〇名であること、原告会社に対し、昭和五一年一一月二〇日、横浜分会及び大和分会の組合結成通知がなされたが、右は補助参加人組合役員、右分会役員が原告の本社に出向き、原告会社の社長が不在であつたため、五味川工場長(取締役)に右両分会の公然化通知書、補助参加人組合の規約、要求書及び団体交渉申入書を手交して行われたこと、神奈川県地方労働委員会が昭和五二年一月二七日本件と同時に救済申立てのあつた団体交渉拒否問題について、原告会社が当初から正当な理由もなくこれを拒否したものとして救済命令を発したが、その後においても原告会社はこれを履行することなく、被告委員会に再審査の申立てをしたが、同委員会は右再審査申立てを棄却したこと、神奈川県地方労働委員会は昭和五五年八月二六日補助参加人組合が申し立てた、仕事差別及び残業、休日出勤差別について、救済命令を発したが、原告会社はこれを不服として被告委員会に再審査の申立てをなしたこと、分会とは別に明輝製作所労働組合が結成されたこと及び原告会社内にはその従業員の親睦団体である親和会があり、昭和五一年一一月当時の会長が佐藤敬一であつたこと、同月二三日、親和会主催のサツカー大会が行われ、これに横浜、大和両工場の従業員と少なくとも二、三名の東京工場の従業員が参加したことは当事者間に争いがなく、右サツカー大会の当日、東京工場の従業員が同工場に集つて懇親会を開いたことは原告の自認するところである。

(二)  いずれも成立に争いのない乙第一四六、一四七号証、同第一五七ないし第一六二号証、同第一六四号証、同第一六七号証、同第一七〇号証、同第一八二号証、右乙第一六一、一六二号証によりその成立を是認しうる乙第一九号証、右乙第一五七号証によりその成立を是認しうる乙第二二ないし第二四号証、同第二八ないし第三一号証、同第三三号証、同第三六ないし第三九号証、右乙第一六一、一六二号証と同第一六六号証にその成立を是認しうる乙第二五号証、右乙第一五七号証と同第一六一号証によりその成立を是認しうる乙第二七号証、同第三二号証、右乙第一五七号証と同第一五九号によりその成立を是認しうる乙第三四号証、右乙第一五九号証によりその成立を是認しうる乙第三五号証、同第四〇ないし第四四号証、同第七九、八〇号証、右乙第一五九号証と同第一六二号証によりその成立を是認しうる乙第六九ないし第七八号証(但し、第一六四号証、第一六七号証、第一七〇号証、第一八二号証中、後に信用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実を認めることができ、右認定に反する趣旨の乙第一六三ないし第一七三号証、同第一八二号証の各記載部分は前顕各証拠と対比するとたやすく信用できず、他に右の認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 前記組合公然化前の昭和五〇年頃、原告会社の大和工場の従業員が「だるま分会」と称して大和分会を、横浜工場の従業員が「スプリング分会」と称して横浜分会を非公然に組織していたが、これは未だ十分に組織が固まらない間に右の組織化を原告に知られることをおそれてのことであつた。両分会は、相互に情報を交換しながら機関紙を発刊したり、作業環境や寮、食堂などの改善要求を掲げてこれを実現しながらその組合員の拡大に努力していた。かくして、昭和五一年一〇月三一日に大和分会が、同年一一月三日に横浜分会がそれぞれ定期大会を開催して同年一一月二五日に組合として公然化することを決定した。

(2) 大和分会及び横浜分会の右のような動向は除々に原告会社側の察知するところとなり、同年一一月一五日、当時の横浜工場長鈴木勇が設計の山田係長、高橋主任に対し「大和の方で設計を中心とした組合が結成されているようだけれど、君達は知らないか。」などと尋ねるようになつた。

また、前記親和会の会長であつた佐藤敬一は横浜分会の副会長でもあつたが、同年一一月一六日、原告会社の黒柳社長から、右鈴木工場長を通じて呼び出されたうえ、「横浜工場とか大和工場に組合らしきものが組織されているが、君は知らないか。」、「親和会という形を今後組合という形に変えていつたらどうか。」、「皆が勉強して上部の人が入つてこないいい組合を作ろう。」などと言われた。

(3) 右のような情況に加えて同年一一月二一日から同月二三日までが連休になることもあつて、組合結成の公然化を同月二〇日とすることに変更された。

(4) 右公然化当時における両分会の組織状態は、横浜工場においては従業員八〇名中六四名が、大和工場においては従業員六〇名中五四名がそれぞれ両分会の組合員となつていた。

(5) 以上のような経緯を経て、組合結成公然化直後の同年一一月二三日(国民の祝日)に前記のとおりサツカー大会が開催される予定となつていたが、東京工場の三上、山口両グループ長は、同日早朝、同工場の従業員宅に電話をかけ、サツカー大会が中止になつたとして東京工場に集るよう連絡した。その結果、前記のとおり、サツカー大会に参加した東京工場の従業員は少なくとも二、三名であつて、他の同工場の従業員のほとんどはこれに参加せず、同工場に集つて懇親会を開いていた。

2  以上1の事実に後に認定の事実とを総合してみると、原告会社の社長をはじめその職制らは、分会公然化直前頃に分会の存在を察知し、特に分会が補助参加人組合を上部団体とすることを嫌忌し、これを表明するような言動が認められ、さらにはサツカー大会終了後にはより明確に原告会社職制らの補助参加人組合の嫌悪、分会員らに対する分会からの脱退慫慂が行われた状況のもとにおいて、もともと原告会社の東京工場従業員が予めサツカー大会へ参加しないことを決めていたものと認めるに足りる証拠もないのに、同工場の従業員のほとんどが親睦団体である親和会の主催するサツカー大会に参加せずに、わざわざ休日に東京工場に集つて懇親会を開いたのはいかなる理由、目的によるものか不明確であり、いかにも不自然なことといわざるを得ない。そうだとすると、東京工場従業員のサツカー大会への不参加は、分会が東京工場を除く横浜、大和両工場のほとんどの従業員を組織して公然化したものの、未だ東京工場の従業員が組織化されていないことを知つた原告会社の職制らとしては、同工場の従業員が横浜、大和両工場の従業員と折触することにより組合の組織化を働きかけられること極力避けようとして、三上、山口らのグループ長が原告会社の意を体して東京工場の従業員に対し電話によつてサツカー大会への不参加を呼びかけ、その代償として東京工場での懇親会の開催となつたものと推認するを相当とする。

以上によれば、右の原告会社の職制らの所為は労働組合法七条三号所定の支配介入に当たり違法で許されざるものというべく、したがつて、この点に関する原告の主張は採用できない。

(一一月二四日における矢口部長の発言について)

1  前顕乙第一九号証、同第四一号証、同第六九号証、同第一五七ないし第一六〇号証、同第一六二号証、同第一六四号証、成立に争いのない乙第一六五号証、前顕乙第一五九号証と同第一六一号証によりその成立を是認しうる乙第九ないし第一一号証(但し、第一六四、一六五号証中、後に信用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実を認めることができ、右認定に反する趣旨の前顕乙第一六四、一六五号証の記載部分は前顕各証拠と対比するとたやすく信用できず、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

昭和五一年一一月二四日昼休み時間中、横浜工場製造部部長矢口恒男が当時大和分会の分会長であつた折腹久宅に電話をかけ(この点は当事者間に争いがない。)、電話に出た折腹の母に対して「お宅の息子は何時から共産党員になつたのか。」、「三瀬は悪い人だ。」、「会社が潰されてしまう。」というような趣旨のことを言つた。

2  前顕乙第一六四、一六五号証によれば、矢口部長と折腹久、矢口家と折腹家との関係は、原告が請求の原因2(三)の(1)及び(2)で主張しているように、単なる会社における上司と部下という関係ではなく、非常に親しい関係にあり、特に折腹家から矢口部長が折腹久のことについて相談や依頼を受けていたこと等も認められるが、前記「サツカー大会に関する事項について」や後における認定、説示の原告会社の分会及びその上部団体に対する考え方や対応と右1において認定した事実を併せ検討すると、右矢口部長の折腹の母に対する電話での発言は、むしろ矢口部長と折腹家の右のような親密な関係を利用して、折腹が大和分会に加入し、さらにはその分会長となつていることは原告会社にとつて好ましくないので、それを辞めさせるよう分会及びその上部団体に対する誹謗、中傷を通じて働きかけたものと認めるを相当とし、これに反する前顕乙第一六四、一六五号証中の矢口恒男の供述を記載した部分は前顕各証拠と対比してたやすく信用できない。

3  以上によれば、右矢口部長の電話による発言は、労働組合法七条三号所定の支配介入に当たり違法で許されざるものというべく、したがつて、この点に関する原告の主張も採用できない。

(横浜工場、大和工場における管理職らのグループ長らに対する発言について)

1(一)  横浜工場と大和工場の管理職らがそれぞれのグループ長(原告会社における組織上最小単位のグループ((三名ないし五名))のリーダーの呼称であり、主として係長、班長あるいは副長の役職にある者である。)を集めて、横浜工場においては昭和五一年一一月二六日、大和工場においては同月二九日話をしたことは当事者間に争いがない。

(二)  前顕乙第一九号証、同第一六〇ないし第一六二号証、同第一六四、一六五号証、同第一六七号証、同第一七〇号証、同第一八二号証、成立に争いのない乙第一六三号証、同第一六六号証、同第一六八、一六九号証、前顕乙第一五九号証によりその成立を是認しうる乙第四九号証、同第五一号証、同第五七号証(但し、第一六三ないし第一七〇号証中、後に信用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実を認めることができ、右認定に反する趣旨の前顕乙第一六三ないし第一七〇号証の記載部分は前顕各証拠と対比するとたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

横浜工場においては、同月二六日午前一〇時頃から午後四時頃までの間、同工場の鈴木勇工場長、増井義博第一営業部長、北条俊彦第二営業部長、関岡部長、相馬興治営業部係長らが同工場会議室において、斎、小林らのグループ長計一八名(うち分会員一一名)を三名ずつに分けて呼び出し、斎グループ長に対しては「どういう気持で組合に入つているのか。」、小林グループ長に対しては「全国一般では三年で会社が潰れる、ソニー、日立からも仕事がこなくなるだろう。」などと言い、さらに「北条、増井部長が松下、ソニーに呼ばれ、明輝さん組合ができたんですつてね、どこの上部団体ですかと聞かれ、全国一般と答えた途端、それはまずいと言われた。」、「今後仕事をだんだん減らしてくるだろう。」、「また一型発注をストツプされた。」などと言つたこと、大和工場においても、同月二九日正午頃、同工場の高部公男工場長、青柳正男部長、黒柳告芳社長は付、竹田課長らが同工場の三階会議室において、同工場のグループ長ら一二名を呼び出し、同人らに対し右横浜工場におけると同内容のことを言つた。

2  前記「サツカー大会に関する事項について」及び「一一月二四日における矢口部長の発言について」並びに後における認定、説示の原告会社の分会及びその上部団体に対する考え方や対応を前提として、右1の(一)、(二)の事実をみると、仮に横浜、大和の両工場の管理職らのグループ長に対する発言内容が第三者である松下電器やソニーの担当者の発言をそのままに伝えたものであるとしても、分会公然化の直後ということをも考慮すると、右管理職らとしても両分会が補助参加人組合を上部団体とすることが原告会社の重要な取引先である松下電器やソニーとの取引に重大な悪影響が及び、ひいては原告会社としても困難な情況に立ち至るであろうとして、補助参加人組合に対する嫌悪感を表明し、そのことにより分会員に原告会社の将来に対する不安感を抱かせ分会からの脱退を暗に求めているものと認めるを相当とし、そうであるとすると、右の管理者らの発言は原告会社の意を体してのものであつて、労働組合法七条三号所定の支配介入に当たり違法で許されざるものというべく、したがつて、この点に関する原告の主張も採用できない。

(天野、宮崎両係長の佐藤正光、人村安男、立川孝夫に対する発言について)

1  前顕乙第一九号証、同第七〇号証、同第一六三号証、同第一八二号証、成立に争いのない乙第一二号証、同第一六、一七号証、前顕乙第一五九号証によりその成立を是認しうる乙第一三号証、同第一八号証、同第五四号証、同第六三号証、同第六七、六八号証、同第八七、八八号証、右乙第一八二号証によりその成立を是認しうる乙第一五六号証(但し、第一六三号証、第一八二号証中、後に信用しない部分を除く。)によれば、次のとおりの事実を認めることができ、右認定に反する趣旨の乙第一六三号証、同第一七一号証、同第一八二号証の各記載部分は前顕各証拠と対比するとたやすく信用できず、他に右の認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 佐藤正光、北村安男、立川孝夫は、昭和五一年一二月一日午後七時頃、大和工場の天野、宮崎両係長から大和民謡会館に呼ばれ、右両名から、原告会社の社長から渡されたというコピーされた組織図のようなものを示されたうえ「社長は全国一般は共産党だ、全国一般に入つている間は分会とは団交をしないと言つている。」と言われた。

(二) 同年一二月中旬、大和工場では天野係長が、横浜工場では相沢係長が分会員の分会脱退届を五人分から一〇人分程度まとめて大和分会長及び横浜分会長に宛て郵送してきた。その後も両分会の分会員は減少の一途を辿り、昭和五二年四月時には大和分会八名、横浜分会三名となり、本件の初審結審時には大和分会四名、横浜分会一名となつていた。

(三) 前示明輝製作所労働組合は昭和五二年二月一六日に結成されたものであるが、その組合員は大和、横浜の両分会を脱退した下級職制が中心となつている。

2  前記「サツカー大会に関する事項について」、「一一月二四日における矢口部長の発言について」及び「横浜工場、大和工場における管理職らのグループ長らに対する発言について」における認定、説示の原告会社の分会及びその上部団体に対する考え方やその対応を前提として右1の事実をみると、右天野、宮崎両係長の言動は原告会社の意を体したものと認めるを相当とし、それは労働組合法七条三号所定の支配介入に当たり違法で許されざるものというべく、この点に関する原告の主張も採用できない。

三  そして、他に本件命令を違法として取り消すべき事由は本件全記録を検討するもこれを見出し得ない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求のうち、本件命令中、初審命令の主文第二項の横浜分会宛誓約書の掲示を命ずる部分に対する再審査申立てを棄却した部分の取消しを求める部分は理由があるので認容し、その余の部分は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭 山下満 田中昌利)

(別紙(一))

命令書

(神奈川地労委昭和五一年(不)第二八号 昭和五四年二月一五日 命令)

申立人 総評全国一般労働組合神奈川地方本部

被申立人 株式会社明輝製作所

主文

1 被申立人会社は、申立人組合を中傷・誹謗したり、非組合員の範囲に関する一方的見解を個々の従業員におしつけるなどして、申立人組合の組合員に対する脱退工作をしてはならない。

2 被申立人会社は、本命令交付後一週間以内に、縦一メートル、横二メートル以上の木板に下記文書を明記し、被申立人の東京本社、大和工場および横浜工場の正面入口の見やすい場所に毀損することなく、一か月間これを掲示しなければならない。

誓約書

会社が、サツカー大会に東京工場の従業員を参加させなかつたり、非組合員の範囲に関する一方的見解を個々の従業員におしつけたり、また、貴組合に対し、「全国一般では三年で会社が潰れる。」など数々の中傷・誹謗を行つたことは、神奈川県地方労働委員会で不当労働行為であると認定されました。

今後、再びこのような行為を行わないことを固くお約束いたします。

昭和  年  月  日

総評全国一般労働組合神奈川地方本部

執行委員長 三瀬勝司殿

同 明輝製作所横浜分会

分会長 清水昭二殿

同 明輝製作所大和分会

分会長 上野充殿

株式会社 明輝製作所

代表取締役 黒柳勝太郎

3 申立人のその余の救済申立てを棄却する。

理由

第1認定した事実

1 当事者

(1) 申立人総評全国一般労働組合神奈川地方本部(以下「地本」という。)は、肩書地に事務所を置き、一七支部六五分会約二、二〇〇名の組合員によつて組織されている労働組合である。地本傘下の湘南地域支部明輝製作所横浜分会(以下「横浜分会」という。)及び港北地域支部明輝製作所横浜分会(以下「横浜分会」という。)は、株式会社明輝製作所大和工場及び同社横浜工場の従業員によつて、それぞれ非公然に組織され、昭和五一年一一月二〇日に公然化された。

(2) 被申立人株式会社明輝製作所(以下「会社」という。)は、肩書地に本社と工場を置き、大和市上和田に大和工場を、横浜市緑区に横浜工場を有し、家庭電気製品のプラスチツク金型の設計、製作をしている企業で、従業員は約一九〇名である。

2 分会公然化

(1) 昭和五〇年ごろ、会社の大和工場では俗に「だるま分会」と称する大和分会が、横浜工場では俗に「スプリング分会」と称する横浜分会が、それぞれ非公然に組織されていた。両分会は、連絡を取り合いながら機関紙を発刊したり、作業環境や寮、食堂などの身近かな要求を実現しながら組合員の拡大に努めていた。昭和五一年一〇月三一日に大和分会が、同年一一月三日に横浜分会がそれぞれ定期大会を開催し、同年一一月二五日に公然化することを決定した。

(2) 昭和五一年一一月一五日、横浜工場長の鈴木勇は、設計の山田係長、高橋主任を呼び「大和の方で設計を中心とした組合が結成されているようだけれど君たち知らないか。」と尋ねた。

(3) 会社には従業員の親睦団体である親和会があり、当時横浜分会の副分会長でもあつた佐藤敬一が親和会の会長であつた。昭和五一年一一月一六日黒柳社長は、鈴木工場長を通じて佐藤敬一を渋谷に呼び出し、次のようなことを言つた。「横浜工場とか大和工場に組合らしきものが組織されているが君は知らないか。」「親和会という形を今後組合という形に変えていつたらどうか。」「皆が勉強して上部の人が入つてこないいい組合を作ろう。」

(4) このため、公然化は、昭和五一年一一月二一日から同年一一月二三日まで連休になることもあつて、同年一一月二〇日に早められた。

同年一一月二〇日、地本役員、分会役員は本社に出向き、社長不在のため五味川工場長(取締役)に、両分会の公然化通知書、地本の規約、要求書及び団体交渉申入書を手交した。

(5) 公然化当時、その組織の状態は、横浜工場では従業員八〇名中六四名が、大和工場では同じく六〇名中五四名がそれぞれ組合員であつた。

3 分会公然化後の会社の諸行為

(1) 会社では昭和五一年一一月二三日の休日に親和会主催のサツカー大会が行われる予定であつた。同日早朝東京工場の三上グループ長、山口グループ長は同工場の各従業員宅に電話をかけ、サツカー大会は中止になつたから東京工場に集まるよう連絡した。このため、東京工場の従業員はサツカー大会には参加せず、同工場に集まつて懇親会を開き、同大会は、大和、横浜両工場の従業員のみで行われた。

(2) 昭和五一年一一月二四日、一二時三〇分ごろ、横浜工場の矢口製造部長は、大和分会長折腹久宅に約一〇分間ほど電話をかけ、これに応対した折腹の母親に対して「お宅の息子はいつから共産党員になつたのか。」「三瀬は悪い人だ。」「会社が潰されてしまう。」などと言つた。

(3) 昭和五一年一一月二五日、午後四時五五分ごろ、各工場でグループ長を集め、「労組法の定めにより機密を要する業務並びに管理監督者であるグループ長、業務員は組合に加入できない。」と記された一一月二四日発「会社回答並びに申入書」を、横浜工場では鈴木工場長が、大和工場では青柳部長がそれぞれグループ長らを集めて配布した。なお、グループ長とは、会社における組織上最小単位のグループ(三名から五名)のリーダーの呼称であり、主として係長・班長・あるいは副長の役職にある者があたつている。

(4) 昭和五一年一一月二六日、午前一〇時から午後四時までの間、横浜工場の鈴木工場長、増井部長、関岡部長、北条部長の五名は、同工場会議室において、斉、小林らグループ長計一八名(うち組合員一一名)を三名ずつ分けて呼び出し、斉グループ長には「どういう気持で組合に入つているのか」小林グループ長には「全国一般では三年で会社が潰れる。ソニー、日立からも仕事がこなくなるだろう」と言い、また「北条・増井部長が松下・ソニーに呼ばれ、明輝さん組合ができたんですつてね。どこの上部団体ですかと聞かれ全国一般と答えたとたん、それはまずいと言われた。」、「今後仕事をだんだん減らしてくるだろう」、「また一型発注をストツプされた」などと言つた。

(5) 昭和五一年一一月二九日正午ごろ、大和工場の高部工場長、北条部長、青柳部長、竹田課長、黒柳社長付はグループ長ら一二名を同工場三階会議室に集め、上記(4)と同旨の話しをした。

(6) 昭和五一年一二月一日午後七時ごろ佐藤正光、北村安男と立川孝夫は、大和工場の天野・宮崎両係長から大和民謡会館に呼ばれ、社長から渡されたというコピーされた組織図を示され、「社長は全国一般は共産党系だ、全国一般に入つているうちは団交をしないと言つている。」と言われた。

4 本件申立後の状況

(1) 昭和五一年一二月中旬、大和工場では天野係長、横浜工場では相沢係長が分会員の脱退書を五人分から一〇人分まとめて大和分会長および横浜分会長宛に郵送した。

両分会の組合員は減少の一途をたどり、昭和五二年四月には大和分会八名、横浜分会三名となり、本件結審時には、それぞれ四名と一名になつてしまつた。

(2) 昭和五二年一月二七日、当委員会は、本件と同時に申し立てられた団体交渉拒否問題について、会社が当初から正当な理由なく拒否したものとして救済命令を発した。その後も会社は団体交渉の要求にまつたく応ぜず、再審査を申し立てたが中央労働委員会においても、会社の再審査申立ては棄却された。

(3) 昭和五二年二月一六日、両分会を脱退した下級職制を中心に明輝製作所労働組合が結成された。

(4) 昭和五二年一〇月一八日、地本は、分会員が仕事上不当な差別を受けているとして救済申立てをし、現在当委員会で別途審査中である。

第2判断

1 支配介入について

組合は、前記第1の3(1)~(6)認定の会社の諸行為は労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であると主張し、会社はいずれもこれを否定するので、以下判断する。

(1) サツカー大会について

会社は、サツカー大会には大和工場の高部工場長ら管理職数名も参加しており、会社がサツカー大会に参加するななどと指示するはずはなく、東京工場ではそのときは参加しない予定であつたのであり、当日同工場にはその従業員が自主的に任意に集まつたものであると主張する。

しかし、なぜ東京工場の従業員だけが親和会主催の従業員全体のサツカー大会に急に参加をとりやめ、しかも休日に東京工場に集まつて懇親会を開いたのか、いかにも不自然であつて、一、二のグループ長の提唱にしてはあまりに大がかりであり、供された酒食が会社負担であつたかどうかは不明であるが、少くともかなりの組織的工作があつたものと推認される。これは、会社が、公然化直後の横浜、大和の両工場の組合員多数とプレーすることにより、東京工場の従業員がそれに感化されたり、その宣伝活動を受けることなどを防止するため、同工場の従業員が組合員と接触することを嫌つて工作したものと推認せざるを得ない。

(2) 矢口製造部長の発言について

会社は、矢口部長の発言については、矢口部長と折腹一家との付き合いは家族ぐるみの付き合いであり、折腹が分会長になつたことを連絡したにすぎず、なんら不当労働行為とはなりえないと主張する。

しかしながら前記第1の三の(2)認定のとおり、矢口部長の発言内容は、公然化したばかりの分会に対する誹謗中傷であり、むしろそれまでの折腹一家との付き合いを利用して分会脱退を慫慂したものと推認せざるを得ない。

(3) グループ長への文書配布について

会社は、文書を配布したことは認めるが、その内容は労組法第二条から当然のことを言及したに過ぎないと主張する。

しかしながら、会社が各工場のグループ長に配布した文書には、「グループ長、業務員は組合に加入できない。」と記載されているのである。もともとこのような組合員の範囲に関しては、労働組合が自主的に決定すべきものであり、使用者の介入は許されない問題であつて、まして本件のように非組合員の範囲に入るかどうか疑う余地のない下級職制について、その職制ら個人個人にそのような文書を配布することは明らかに使用者の正当な行為の範囲をこえたものと認められる。

(4) 横浜工場と大和工場における鈴木工場長、高部工場長、北条部長らのグループ長らに対する発言について

会社は、全国一般はまずいと言つた発言はあつたが、それは松下電器の担当者が語つた内容を伝えたまでのことで、第三者が語つた内容をそのまま伝えることは、たとえその内容が直接会社が語れば不当労働行為となりうる内容のものであつたとしても、なお会社に黙秘する義務がない以上、その発言が不当労働行為となることはないと主張する。

しかしながら、会社職制のそのような発言内容は、たとえそれが取引先の言葉であつたとしても、いずれも地本の存在がソニーや松下電器との取引に悪い影響を与えることを強調したものであり、それはとりも直さず地本の存在が会社にとつて好ましくないものであることを示し、地本に対する嫌悪感を表わしたものであることは明らかであつて、組合員に会社の将来に対する不安を生じさせ地本からの脱退を求めたものと認められる。

(5) 天野・宮崎両係長の佐藤らに対する発言について

会社は、社長がかかる発言をしたことが真実か否かはさておき、仮に真実としても、社長がかかることを語つていたという事実を伝えたまでで、両係長の発言は会社の意を体し佐藤らを地本から脱退させるなどの目的のもとになされたものではないから不当労働行為とならないと主張する。

しかし、前記第1の4の(1)認定のとおり、後に天野係長は脱退届を一括して分会長に郵送したことからして、両係長の発言は佐藤らに地本からの脱退をすすめたものと判断せざるを得ず、加えて会社の上記(1)から(4)の言動からみると黒柳社長の意を体したものと推認せざるを得ない。

以上の(1)ないし(5)における会社の諸行為は、地本の再三にわたる団体交渉申入れを会社が長期間全く拒否しつつあるなかで行われたものであり、いずれも支配介入行為であると判断せざるを得ず、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為である。

2 損害金の請求について

申立人は、被申立人の前記1の不当労働行為によつて生じた損害、すなわち、脱退者の組合費相当額並びに団結権侵害に対する損害金相当額の合計額の支払いを求めている。

使用者の支配介入によつて労働組合又は労働者に対し損害を生ぜしめた場合に、労働委員会がその救済として金銭的給付を命じ得る場合もあろうが、本件においては主文第1項及び第2項による範囲をこえてまで、あえて救済を必要とする特段の事情が認められないので、その救済請求は認めがたい。

よつて労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条の規定より主文のとおり命令する。

(別紙(二))

再審査命令書

(中労委昭和五四年(不再)第一三号・昭和五四年(不再)第一四号 昭和五六年七月一日命令)

第一三号再審査申立人 第一四号再審査被申立人 株式会社明輝製作所

第一三号再審査被申立人 第一四号再審査申立人 総評全国一般労働組合神奈川地方本部

主文

本件各再審査申立てを棄却する。

理由

第1当委員会の認定した事実

当委員会の認定した事実は、以下のとおり改める以外は、初審命令の理由第1の認定事実と同一であるので、これを引用する。

1 初審命令の理由第1の1の事実中、「申立人」を「昭和五四年(不再)第一三号事件再審査被申立人、同第一四号事件再審査申立人」に、「被申立人」を「昭和五四年(不再)第一三号事件再審査申立人、同第一四号事件再審査被申立人」に改める。

2 初審命令の理由第1の3の(1)の事実中、「東京工場の従業員は」を「東京工場のほとんどの従業員は」に、「大和、横浜両工場の従業員のみで行われた。」を「大和、横浜両工場の従業員と二、三名の東京工場の従業員が参加して行われた。」に改める。

3 初審命令の理由第1の3の(4)の事実中、「北条部長の五名」を「北条部長、相馬係長の五名(ただし、北条部長は午後のみ出席)」に改める。

4 初審命令の理由第1の4の見出しを「4 初審における救済申立後の状況」に改める。

5 初審命令の理由第1の4の(1)の事実中、「本件結審時」を「初審結審時」に改める。

6 初審命令の理由第1の4の(2)の事実中、「当委員会」を「神奈川県地方労働委員会(以下「地労委」という。)」に、「中央労働委員会」を「当委員会」に改める。

7 初審命令の理由第1の4の(4)を次のとおり改める。「(4)昭和五二年一〇月一八日に地本が申し立てた仕事差別及び残業・休日出勤差別について、地労委は、昭和五五年八月二六日救済命令を発したが、会社はこれを不服として当委員会に再審査を申し立てた。」

第2当委員会の判断

1 支配介入について

会社は、本件初審命令が、〈1〉東京工場従業員のサツカー大会不参加、〈2〉矢口製造部長の発言、〈3〉グループ長への文書配布、〈4〉横浜工場と大和工場における鈴木工場長、高部工場長、北条部長らのグループ長らに対する発言、〈5〉天野、宮崎両係長の佐藤らに対する発言をいずれも不当労働行為であると判断したことを不服として再審査を申し立てたが、当委員会の判断は、以下のとおり改める以外は、初審命令の理由第2の1の判断と同一であるのでこれを引用する。

(1) 初審命令の理由第2の1の(1)の判断中、「しかし」以下を次のとおり改める。

「しかしながら、東京工場ではサツカー大会に参加しない予定であつたとの会社の主張を認めるに足る疏明はない。かえつて、東京工場の従業員はサツカー大会に参加する予定であつたものと認められるのに、なぜ当該従業員だけが親和会主催の従業員全体のサツカー大会に、当日の朝になつて急に参加をとりやめ、しかも休日に東京工場に集まつて懇親会を開いたのか、いかにも不自然である。

ところで、この大会の開催の前後の事情をみると、初審命令の理由第1の2の(2)及び(3)の認定のとおり、会社は分会公然化直前頃には、分会の存在を察知し、とくに上部団体を嫌悪する趣旨の言動が認められ、加えてサツカー大会直後には、初審命令の理由第1の3の(2)、(4)、(5)及び(6)認定のとおり、会社職制らの上部団体嫌悪、分会からの脱退慫慂があつたことなどが認められる。

以上のことを総合すると、本件東京工場従業員のサツカー大会不参加は、公然化した分会が大和・横浜両工場の大多数の従業員を組織していたことから、未だ組織されていない東京工場にまでこれが波及することを恐れた会社が、分会員との接触を防止することを企図し、その旨を体した三上、山口らのグループ長が、初審命令の理由第1の3の(1)認定のとおり、電話をしたものと推認するほかなく、会社の主張は採用できない。」

(2) 初審命令の理由第2の1の(2)の判断中、「前記第一の3の(2)」を「初審命令の理由第一の3の(2)」に改める。

(3) 初審命令の理由第2の1の(5)を次のとおり改める。

「(5) 天野・宮崎両係長の佐藤らに対する発言について

会社は、社長がかかる発言をしたことが真実か否かはさておき、仮に事実としても、社長がかかることを語つていたという真実を伝えたまでで、両係長の発言は会社の意を体し、佐藤らを地本から脱退させるなどの目的のもとになされたものではないから不当労働行為とはならないとの初審での主張を変え、当審では天野係長自身このようなコピーされた組織図を見たことはないし、社長からこのような話を聞いたことも、佐藤らに話したこともない旨主張する。

しかしながら、初審及び当審における証拠によれば、初審命令の理由第1の3の(6)のとおりの事実が認められ、これを覆すに足る証拠はなく、会社の主張は採用できない。そして、初審命令の理由第1の4の(1)認定のとおり、後に天野係長は脱退届を一括して分会長に郵送したことからして、両係長の発言は佐藤らに地本からの脱退を勧めたものと判断せざるを得ず、加えて会社の上記(1)から(4)の言動からみると黒柳社長の意を体したものと推認せざるをえない。」

2 損害金の請求について

地本は、本件初審命令が、会社の団結侵害によつて生じた損害の回復の手段として、脱退者の組合費相当額及び団結侵害に対する損害金相当額の合計額の支払いを認めなかつたが、これは救済内容として不十分であり、不当労働行為制度の目的にも適しないものであると主張する。

しかしながら、本件において、初審命令主文第1項及び第2項の範囲をこえて、かかる救済を必要とするとは認め難い。

以上のとおり、本件各再審査申立てには理由がない。

よつて、労働組合法第二五条及び第二七条並びに労働委員会規則第五五条の規定に基づき主文のとおり命令する。

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